
歯の欠損と口元の印象はどう関わるのか
歯を失ったままにしておくと、噛み合わせのずれやあごの骨がやせることで、唇や頬を内側から支える力が弱まり、口元のシワや左右の差にかかわることがあります。一方で、顔全体のたるみや深いシワには、年齢や肌のハリが落ちることなど、歯のほかの原因も重なっています。
この記事では、歯がないことが口元にどう関わるのかと、年齢など別の原因との見分け方をまとめました。ブリッジ・入れ歯・インプラントの特徴や、歯の治療で変化が見込める範囲、初めての受診で聞いておきたいことまでお伝えしますので、受診の前に考える材料としてお役立てください。
この記事の要点まとめ
- 歯の欠損は噛み合わせや顎の骨、唇・頬の支えに関わり、口元のシワや左右差につながることがあります。
- 顔全体のたるみには加齢なども関係し、歯科治療で整えられる範囲は噛み合わせや内側の支えが中心です。
- ブリッジ・入れ歯・インプラントの特徴を知り、骨や歯ぐき、費用、期間、治療後の管理について初診で確認しましょう。
- 歯を失うと口元のシワや顔のたるみにどう影響するの?
- そのシワやたるみは歯の欠損が原因?加齢など別の要因との見分け方は?
- ブリッジ・入れ歯・インプラントで、口元の見た目と噛む力はどこまで変わる?
- 歯科の初診では何を確認し、費用や通院期間について何を聞けばいい?
- よくある質問
- 参考文献
- 監修
歯を失うと口元のシワや顔のたるみにどう影響するの?

歯の欠損は、歯並びや噛み合わせの変化、顎の骨の減少、そして唇や頬の内側の支えが失われることを通じて、口元の印象に影響を与えることがあります。見た目だけでなく、食事でしっかり噛む、明瞭に話す、自然に笑うといった日常の働きとも深く結びついています。
歯を失ったままにすると、隣の歯の傾きや向かいの歯の伸び出しが起こる
歯を失った部分を補わずに期間が経つと、周囲の歯が少しずつ動いて噛み合わせのバランスが崩れていきます。具体的には、空いた隙間へ隣の歯が傾いてきたり、噛み合う反対側の歯が伸び出してきたりして歯並びが乱れ、顎を動かす際の妨げや食べ物を噛み砕く力の低下につながります1。
噛み合わせがずれると、無意識のうちに噛みやすい側ばかりを使うようになり、口元の筋肉の使われ方に偏りが出ることがあります。抜歯から1年ほど経過して気になり始めた場合でも、まずは現在のお口の中でどの程度歯の移動が起きているかを確かめることが、これ以上の変化を防ぐ第一歩になります。
奥歯の欠損と前歯の欠損で、口元への影響はどう違う?
失った歯が奥歯か前歯か、また1本か複数本かによって、口元に現れやすい変化は異なります。奥歯を複数本失ったままにすると、奥歯で噛みしめたときのお口の高さが低くなったり、下あごの位置がずれたりして、見た目や噛む働きに影響することがあります。
一方で前歯の欠損は、唇を内側から押し出す支えに直結するため、口元のくぼみや縦ジワが目立ちやすくなります。また、歯は発音にも関わっているため、前歯がないと息が漏れやすくなり、話しやすさに影響することもあります2。欠損の本数が増えるほど、こうした内側の支えは小さくなる傾向にあります。
歯を失った部分の顎の骨がやせていく仕組みと口元のくぼみ
歯が抜けると、歯そのものだけでなく、歯を支えていた顎の骨(歯槽骨:しそうこつ)も少しずつやせていきます。噛む力が骨に伝わらなくなると、骨が新しく作られる働きが遅くなり、こわされる働きが進むため、骨の中の細かな柱のような部分が少しずつ細く短くなると考えられています3。
骨がやせるとその上にある歯ぐきの高さや厚みも減り、唇や頬を内側から支える土台が小さくなって口元のくぼみにつながることがあります。残っている骨の量は、のちに歯を補う治療法を選ぶ際や、口元の自然な膨らみをどこまで整えられるかにも関わるため、早めに状態を把握しておくことが大切です。
ポイント
歯がなくなると、まわりの歯が動いたり、片側でばかり噛むようになったり、あごの骨がやせたりして、唇や頬を内側から支える土台が変わることがあります。
そのシワやたるみは歯の欠損が原因?加齢など別の要因との見分け方は?
口元のまわりだけに出る変化は、歯がないことや噛み合わせと関わっていることがあります。一方、顔全体のシワやたるみは、年齢を重ねることや肌のハリの低下、体重の増減、表情をつくる筋肉の変化など、いくつもの原因が重なって生じます。歯の治療で対応できる範囲とそうでない範囲を分けて考えることが欠かせません。
欠損と関係しやすい変化・関係しにくい変化を見分ける目安
気になっている変化が歯の欠損と関わっているかどうかは、変化が起きた場所と時期からある程度の目安をつけることができます。次のような特徴が見られる場合は、お口の中の土台や噛み合わせとの関係を確認する意味があります。
- 歯がないことと関係しやすい変化:歯を失った側だけ頬がこけて見える、笑ったときの口角の高さが左右で違う、歯を抜いてから片側で噛むようになり口元の違和感が強まった
- 別の原因が中心と考えられる変化:目の下やおでこのシワ、あごの下から首にかけての顔全体のたるみ、体重が急に減ったあとに目立ち始めた変化
なお、お顔の左右差には、片側噛みだけでなく頬杖をつく癖や日中の食いしばりなど、生活習慣による筋肉の緊張が関わっていることもあります。
「歯を入れればほうれい線が消える」は誤解?歯科治療に期待できること
「抜けた歯を補えば、ほうれい線や顔のたるみがなくなる」と期待されることがありますが、これは必ずしもそうとは限りません。皮膚そのもののハリ低下や皮下脂肪の下垂によってできたシワは、歯の治療だけで解消することはできないためです。
歯科治療に期待できるのは、失われた歯と噛み合わせの高さを補い、唇や頬を内側から支える環境を整えることで、欠損によって生じていた口元のくぼみや左右の偏りを和らげる範囲にとどまります。患者さまのご要望をすべて叶えると安易に約束するのではなく、歯科治療でできることとできないことの境界線を事前にはっきりお伝えすることが、誠実な医療の基本だと考えられます。
歯科と皮膚科・美容医療、どちらに先に相談すべき?
歯を失ったままの部分がある状態で口元の印象に悩んでいる場合は、皮膚科や美容医療の前に、まず歯科医院でお口の中の土台を確認する順番が合理的です。歯がない状態をそのままにしておくと、隣の歯の傾きや噛み合わせの変化が少しずつ進んでしまうためです1。
先に噛む機能と口元の内側の支えを整え、そのうえでお肌の表面のシワやたるみが気になる場合に美容医療などを検討する方が、結果として納得のいく選択につながりやすくなります。
ポイント
歯科治療で整えられるのは「内側の支え」と「噛み合わせ」であり、加齢による皮膚全体のたるみとは区別して考える必要があります。
ブリッジ・入れ歯・インプラントで、口元の見た目と噛む力はどこまで変わる?

歯を補うどの治療法も、まずは「しっかり噛める機能を取り戻すこと」が第一の目的であり、口元の見た目がどの程度変化するかは、欠損した部位や本数、残っている骨や歯ぐきの状態によって左右されます。
| 治療法 | 支え方と特徴 | 一般的な費用の目安 | 主な注意点・リスク |
|---|---|---|---|
| ブリッジ | 両隣の歯を削り、橋渡しの被せ物を固定する | 保険適用:数千円〜2万円程度<br>自由診療:1本あたり10万〜20万円程度 | 健康な隣の歯を削る必要がある。支える歯に負担がかかる |
| 部分入れ歯 | 残っている歯に留め具をかけ、粘膜の上に乗せる | 保険適用:5千円〜1万5千円程度<br>自由診療:15万〜50万円程度 | 違和感や痛みが出ることがある。留め具が見える場合がある |
| インプラント | 顎の骨に人工歯根を埋め込み、その上に歯を作る | 原則として自由診療(一部の条件では保険適用):1本あたり40万〜55万円程度 | 外科手術が必要。骨や歯ぐきの条件により追加処置を要する |
※ここに書いた金額はおおよその目安で、当院の料金ではありません。じっさいの金額は、医院や使う材料、お口のようすによって変わります。保険のきかない自由診療では、健康保険は使えません。
ブリッジは両隣の歯を削る負担と引き換えに何を取り戻せる?
ブリッジは取り外しの必要がない固定式のため、自分の歯に近い感覚で噛みやすく、前歯などでは唇の内側の支えも得やすい方法です。ただし、欠損部の両隣にある健康な歯を大きく削って土台にしなければなりません。
失った歯の分の噛む力を両隣の歯だけで負担するため、土台となる歯の寿命に影響することがあります。また、奥歯を2本以上続けて失った場合や、一番奥の歯がない場合には構造上選べないこともあり、1本でも多くの歯を長く残す視点から、支える歯の状態を慎重に見極める必要があります。
部分入れ歯で「噛めない」「痛い」と感じやすいのはなぜ?
部分入れ歯は、残っている歯を大きく削らずに複数の欠損を補える方法です。また、歯ぐきが大きくやせている場合には、入れ歯のピンク色の床(しょう)の部分で厚みを足し、口元の内側の膨らみを補えることがあります。
一方で、柔らかい粘膜の上で噛む力を受けるため、天然の歯に比べると強く噛みにくい面があります。入れ歯が動いて粘膜に当たると痛みが出たり、留め具をかける歯に揺さぶる力がかかったりします。「入れ歯を入れたくない」「入れてみたけれど噛めない」と悩まれる方は、噛めない原因が適合にあるのか、別の治療法が適しているのかを歯科医師と相談することが大切です。
インプラントの見た目と長持ちを左右する、骨と歯ぐきの条件とは?
インプラントは顎の骨に直接人工の歯根を固定するため、両隣の歯を削らずに噛む力を回復しやすい治療法です。ただし外科手術を伴い、術後の腫れや痛みなどのリスクがあるほか、治療後もインプラント周囲炎を防ぐための定期的なメンテナンスが欠かせません。
自然な見た目と長い期間の安定には、土台となる骨の量だけでなく、インプラントのまわりの歯ぐき(角化粘膜)の幅や厚みも関わります。こうした歯ぐきが保たれていることが、炎症や歯ぐき下がりを抑えるうえで関わるという報告があります。
当院では、抜歯を伴う場合、歯と骨の状態を調べたうえで、抜歯直後・歯ぐきが治ったあと・骨が治ったあとのどの時期に埋め込むかを選びます。骨や歯ぐきが不足している場合は、骨造成(GBRなど)や歯ぐきの移植を行ってから進める場合があり、その分治療期間が数ヶ月延びることがあります。
欠損部位・本数・骨量・歯周病の有無から考える治療法の選び方
どの治療法が適しているかは、失った歯の場所や本数、両隣の歯の健康状態、顎の骨の厚み、そして歯周病の有無を総合的に診査して判断します。もし残っている歯にむし歯や歯周病があれば、どの方法を選ぶにしても先にその治療を行い、お口全体の環境を整えることが先決です。
その場しのぎで欠損部だけを埋めるのではなく、10年後もご自身の歯で食事や会話を楽しめる状態を保つために、検査結果によっては当初のご希望とは異なる治療計画が提案されることもあります。
歯科の初診では何を確認し、費用や通院期間について何を聞けばいい?
歯科の初診では、歯がない部分だけでなく、残っている歯や歯ぐき、噛み合わせ、顎の骨の状態まで調べたうえで、複数の選択肢とそれぞれの期間・費用・治療後の管理について説明を受けられます。その場で治療法を即決する必要はありません。
初診で確認する項目:欠損部・残っている歯・歯ぐき・噛み合わせ・顎の骨
口元のシワや左右差が気になっている場合、初診のカウンセリングと検査では主に次の項目を確認します。
1. 問診とお悩みの確認:いつ歯を失ったか、食事での噛みにくさ、写真などで気になる口元の変化
2. お口の中と歯周組織の検査:隣の歯の傾きや向かいの歯の伸び出し1、むし歯や歯周病の有無
3. レントゲン・歯科用CT撮影:目に見えない歯の根の状態や、欠損部の顎の骨の高さ・厚みの立体的な把握
4. 噛み合わせとお顔のバランスの確認:口腔内スキャナーを用いた歯型の記録や、必要に応じたお口元・お顔の写真撮影
これらの精密な診査を行うことで、口元の変化に歯の欠損がどの程度関わっているのか、またどの治療法が適応となるのかを客観的に判断できるようになります。
見た目の希望の伝え方と、費用・期間・治療後の管理で質問したいこと
診察時に見た目の悩みを伝える際は、「最近の写真で右側の頬だけこけて見える」「口を閉じたときの口元のくぼみが気になる」など、いつ・どの部分が気になったかを具体的に話すと歯科医師に伝わりやすくなります。また、ご家族と相談しながら検討できるよう、以下の点を確認しておくと見通しが立てやすくなります。
- 費用の内わけと支払い方法:示された金額に、検査や手術、仮歯、最後に入れる被せ物、保証やメンテナンスがどこまで入っているか。分割払いやデンタルローンを使うときの条件
- 治療にかかる期間と通う回数:歯周病の治療や骨を増やす処置、抜歯のあと傷が治るのを待つ期間4が要るとき、全体で何ヶ月かかり、何回ほど通うか
- 治療のあとのお手入れ:毎日のお手入れのしかたと、治療が終わったあとの定期検診の間かく(3〜6ヶ月に1回など)
先延ばしを避けたい症状と、仕事や家族の付き添いと両立する通院の考え方
反対側の歯で噛めているからと様子を見ている間にも、向かいの歯が伸び出して隙間が狭くなったり、残っている歯の歯ぐきが腫れたりしている場合は、治療が複雑になる前に早めの受診が望まれます1。
お仕事やご家族の通院付き添いなどで平日の時間が限られている方は、初診の段階で1回あたりの診療時間や通院ペースの希望を伝えておくことで、生活リズムに無理のない治療計画を立てやすくなります。阪急電鉄岡町駅から徒歩5分の当院をはじめ、通い続けやすい立地や予約体制の歯科医院を選び、まずは現在のお口の状態を確かめるところから始めてみてください。
ポイント
初診は「すぐ治療を始める場」ではなく、骨や噛み合わせの状態を知り、費用や通院期間の見通しをご家族と相談するための材料を集める場として活用できます。
よくある質問
Q. 矯正治療中に顔が歪む、あるいは老けたように見えるのはなぜですか?
矯正の装置になじめず、しばらく噛む回数が減ると、頬の筋肉(咬筋など)が落ちて頬がこけたように見えることがあります。また、歯が動くとちゅうで、噛み合わせの位置がいっときだけ変わることも原因として考えられます。抜歯をする矯正で前歯を後ろへ下げすぎると、唇の支えが減ってほうれい線が目立ちやすくなることがあるため、はじめに骨格を調べて治療の計画を立てることが大切です。
Q. 食いしばりをしやすい人に性格や生活上の傾向はありますか?
特定の性格だけで決まるものではありません。ただ、日中にパソコン作業や細かい手作業に長時間集中しやすい方、緊張やストレスを抱えやすい環境にある方は、無意識に上下の歯を接触させる癖(TCH)や食いしばりが起こりやすいとされています。強い食いしばりは歯の破折や欠損、エラ周辺の筋肉の張りによる輪郭の変化にも関わるため、気づいたときに唇を閉じて上下の歯を離す意識を持つことが勧められます。
Q. 顎がシャリシャリ・カクカク鳴るのを放置するとどうなりますか?
顎を動かしたときの音は、顎関節症の症状のひとつです。カクカクという音は、顎関節の中でクッションの役割をする組織(関節円板)の位置のずれと関係することが多いとされます。シャリシャリ・ジャリジャリという音は、下あごの骨の先(下顎頭)など、骨の表面の変化と関係することが多いとされます。
痛みや口が開けにくい症状がなければ、様子をみることもあります。ただし、顎関節症にはいくつもの要因が関わり、歯がないことによる片側噛みや食いしばりが負担になることもあります。痛みが出たり口が大きく開かなくなったりしたときは、歯科で噛み合わせなどを確かめることをおすすめします。
Q. インプラントの費用をデンタルローンや分割払いで支払うことはできますか?
多くの歯科医院で、信販会社を通じたデンタルローンやクレジットカードの分割払いに対応しています。デンタルローンを使う場合は、信販会社の審査が必要です。そのため、「審査なし」で長期の分割を組むことは、原則として難しいです。
住宅ローンや教育費との兼ね合いも含め、使える支払い方法や頭金の有無は、初診やカウンセリングのときに歯科医院の窓口でお確かめください。
参考文献
1. 入れ歯 – 歯とお口のことなら何でもわかる テーマパーク8020 https://www.jda.or.jp/park/lose/index17_03.html
2. 言語機能と構音障害 – 歯とお口のことなら何でもわかる テーマパーク8020 https://www.jda.or.jp/park/relation/language_02.html
3. Alveolar bone changes due to loss of masticatory stress. https://www.jstage.jst.go.jp/article/joralbiosci1965/24/4/24_4_951/_article/-char/en
4. Bassir SH, El Kholy K, Chen CY et al. Outcome of early dental implant placement versus other dental implant placement protocols: A systematic review and meta-analysis. Journal of periodontology (2019). PMID: 30395355 / DOI: 10.1002/JPER.18-0338
2004年 医療法人かい歯科、かい矯正歯科インプラントセンター 勤務
2007年 大阪大学歯学部大学院 歯科生体材料学講座 入学
2009年 医療法人かい歯科 退職
2009年 大阪デンタルクリニック、医療法人たんぽぽ会 非常勤 勤務
2009年 まつもと歯科 開院
2011年 大阪大学歯学部大学院 歯科生体材料学講座 卒業
2013年 マウスピース型矯正治療法(インビザライン矯正システム)認定医
2015年 国際口腔インプラント学会認定医 取得
2019年 Club GP 理事
2021年 日本歯科審美学会認定医 取得
2023年 国際口腔インプラント学会指導医 取得
2024年 日本口腔インプラント学会専修医 取得
2026年 日本口腔インプラント学会専門医 取得
2026年 歯科医師臨床研修指導歯科医
国際口腔インプラント学会
日本歯科審美学会
日本矯正歯科学会
東京SJCD
皆川インプラントアカデミー
保田矯正塾
Club GP
OJ(Osseointegration Study Club of Japan)
日本歯科医師会
大阪府歯科医師会
豊中市歯科医師会
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